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「リョクと呼んで下さい」
透明な覆いの中に入り込み、シートに跨がった途端、青年の声色で告げられた。
人格さえ変えたとの言葉を思い出し、翼は機械の柔軟性を知りつつもその変容ぶりに驚く。
次いで、告げられた名が『緑』の訓読みだとも。
搭乗者を風雨から守る為に設けられた覆いは、同時にリョクが人型になった際には楯ともなる部分でもあり、中間に樹脂に因る強化膜を入れ込んだ合わせガラスと強化ガラス。さらには人工知能が計算して弾き出したカーボン製の頑丈な新素材で出来ている。
炭素の塊であるダイヤモンド並みの透明度、硬度もダイヤモンドに次ぎ、軽量さ、しなやかさを持ち得る素材。
「僕の事は翼で」
「了解しました。ツバサ」
いささか、機械らしさを意識させる口調。
翼が、自分の我儘な願いに付き合わせていると負担に思わせない為の振舞いは、優秀な人工知能の持つ気遣いなのか。
滅びへのカウント・ダウンは、機械が機械を作り上げるシンギュラリティが起こってから僅か二年後に観測され、人と機械の共同発表は全ての未来を閉ざした。
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