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私が彼女と出会ったのは秋の終わりごろでした。
肌に当たる霧雨が刺すように冷たかったのを覚えています。
私は路地裏のゴミ捨て場で両足を投げ出すようにして座っていました。
もちろん何も身に着けていません。
「おねえさん、さむくないの?」
レモン色の傘を差した小さな女の子が私の前に立っています。
「パパ! こんなところにヒトがいるよ」
女の子に呼ばれてやってきた父親は、私をみとめて顔をしかめました。
穢らわしいものを見るような目で私を見下ろしています。
まあ、こういう反応には慣れていますが。
せめて服を着せてくれたらよかったのに……。
前の主を恨みましたが、詮なきことです。
だって私は裸で奉仕することを目的に作られた『ドール』なのですから。
「パパ、このおねえさん、はだかんぼでさむくないの?」
「大丈夫。よく出来ているが、それは人形だ」
「にんぎょう……?」
女の子は首をかしげます。
まん丸の目をさらに丸くして、まじまじと私を覗きこんできます。
私をみつめるその瞳は澄んだ薄茶色をしていました。
……どうしましょう?
人間のこういう反応には慣れていません。
「ねぇパパ、このおにんぎょうさん……ママににてるね」
「似てない。……一緒にするなよ、そんなもんと」
「こんなところにヒトリでいるなんてかわいそうだよ。うちにつれてってあげよう!」
「馬鹿なこと言うんじゃない。それはママじゃない」
「……ねぇパパ。ママは? ママはどこにいったの?」
女の子は父親を見上げて問いかけました。
何度も何度も問いかけました。
「うるさい! ママはもういない、って言ってるだろう!!」
しばらく黙っていた父親がついに声を荒げました。
怒鳴られた女の子は顔を歪めると、
「やだぁ! ママにあいたいよぉ!! ママ、つれてくのぉ!!」
火のついたように泣きだしました。
駄々をこねて泣き止まない娘を宥めるために、父親は仕方なく私を担ぎあげました。
こうして私は、この小さな主のもとで暮らすことになったのです。
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