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主はどうやら父親とふたりっきりで暮らしているようでした。
家に着くとまず清潔なタオルで汚れた私の体を拭いてくれました。
こんなふうに優しく触れられるのは初めてです……。
主はつたない手つきで、背中の中ほどまである私の長い髪を撫でました。
「きれい……ママみたい」
主は私の髪を撫でながら、うっとりとつぶやきました。
その夜から私は毎晩、主と同じベッドで寝ました。
前の主とちがって私の胸や股をまさぐってくることはありません。
新しい主はただ私の隣で仔猫のように丸くなって寝ていました。
そしてたまに「……ママ」と言って泣きました。
「ママはね、いつもねるまえにご本をよんでくれたんだ」
主はたどたどしい語り口で、毎晩一生けんめい私に本を読み聞かせてくれました。
白ウサギを追いかけて穴に落ちた女の子や100年も眠り続けるお姫様、チューリップから生まれた親指ほどの小さな少女……主のおかげで世界にはいろいろな人間がいることを知りました。
一番印象的だったのは、鼻の長いあやつり人形が人間の子供になるお話です。
そのお話を読み終わったあと、主はしばらく無言で私のことを見つめていました。それからベッドの後ろのカーテンを開けると、膝をついて小さな手を組み、窓から見える星に向かって頭を垂れました。
星のひかりに照らされた主は、まるで天使のようだと私は思いました。
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