残業禁止令

1/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

残業禁止令

転職活動中、ブラックだという噂を聞いていた。 とても定時で終わらない程の仕事量を与えられたうえ、残業時間は絞られ、退職するしかなくなる頃には皆一様に消耗しているのだそうだ。 それでも、年若い妻と2人の子どもを持つ僕は、戸建てマイホームの夢を叶えたこの地方都市で働かなくてはならない。少ない選択肢の中からこの会社への就職を決意した。 ーーーーーー 「ここがあなたの席」 上品な笑みをたたえた女性部長は、面接の時と変わらずやわらかい対応で僕を迎えてくれた。 「仲良くやってね」 3つの業務が1つの部となっている、その角の空席に僕はカバンを置いた。 仕事に使うPCはセットアップが終わっていて、すぐさま業務に取り掛かることができた。 早速、メールソフトやブラウザを自分の使い慣れた設定にして、待ち構えていたように飛んでくる指示の対応を始めた。 分からないことは隣の席の女性に聞いた。 彼女は必要なことのみ、シンプルに回答をしてくれる。馴れ合う気がないのか、笑顔を見せない。 その向かいの席ではニコニコと愛想の良い年配の男性が、椅子にふんぞり返ってモニターに向かっていた。 同じ部署のこの2人、仲が良くなさそうなことは空気で分かった。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!