第一話 迷子な彼女

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第一話 迷子な彼女

1  僕はアスファルトを蹴り上げ、全力で走っていた。  学校まで、およそ二キロ。  走りつつ腕時計をちらりと見ると、絶望的な時刻が目に飛び込んできた。  ──後五分!  こんなのチーターでも無理だ。車だって、信号無視でもしないと無理だ。  僕は足を止め、両膝に手を置いた。呼吸が荒い。体力の限界だ。きっと鍛え方が足りない。  そもそもだ。普段ならのろのろヨタヨタと歩いている通学路を、なぜ全力で走っていたのか。  寝坊したから? もちろん、それも理由の一つ。  でももっと重大な理由がある。  誰にも言っていないが、僕は高校二年になってから、一度も遅刻をしていない。  取るに足らない記録だが、僕にとってはこの『高校二年』が特別なのだ。  僕は学級委員長だ。クラスメイトの規範とならねばならない。  遅刻など言語道断。  さらにだ。  今日は転校生がやってくる日だ。  その転校生は、遅刻してきた僕を見て、きっとこう思うだろう。 『学級委員長が遅刻ですって? なんて腑抜けなクラスなの?』  なぜ女子なのかは僕の都合だ。別に男子でも構わないが、それじゃ想像してもつまらない。  僕は連休明けの朝、布団の誘惑に打ち勝てなかった事を呪った。     
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