7人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 迷子な彼女
1
僕はアスファルトを蹴り上げ、全力で走っていた。
学校まで、およそ二キロ。
走りつつ腕時計をちらりと見ると、絶望的な時刻が目に飛び込んできた。
──後五分!
こんなのチーターでも無理だ。車だって、信号無視でもしないと無理だ。
僕は足を止め、両膝に手を置いた。呼吸が荒い。体力の限界だ。きっと鍛え方が足りない。
そもそもだ。普段ならのろのろヨタヨタと歩いている通学路を、なぜ全力で走っていたのか。
寝坊したから? もちろん、それも理由の一つ。
でももっと重大な理由がある。
誰にも言っていないが、僕は高校二年になってから、一度も遅刻をしていない。
取るに足らない記録だが、僕にとってはこの『高校二年』が特別なのだ。
僕は学級委員長だ。クラスメイトの規範とならねばならない。
遅刻など言語道断。
さらにだ。
今日は転校生がやってくる日だ。
その転校生は、遅刻してきた僕を見て、きっとこう思うだろう。
『学級委員長が遅刻ですって? なんて腑抜けなクラスなの?』
なぜ女子なのかは僕の都合だ。別に男子でも構わないが、それじゃ想像してもつまらない。
僕は連休明けの朝、布団の誘惑に打ち勝てなかった事を呪った。
最初のコメントを投稿しよう!