ずるやすみ

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ずるやすみ

私には贅沢な悩みがある。 脱サラして5年目、私は小説で生計を立てている。 好きなことをやって生きていくというのは素晴らしいもので、厭味ったらしい同僚や、高圧的な上司と顔を合わせる必要もない。 理不尽な注文を付ける客に頭を下げる必要もない。 私は小説を書くために騒々しい大阪の街から引っ越して、京都の今出川に小さな物件を借りた。 観光客の声は多少気になるが、それに目を瞑ってでも京都の街並みには価値がある。 朝方、「ホォーーーーーー」と声を伸ばしながら行列を作って歩く坊主たちの声で目が覚め(あれは托鉢というらしい)、一杯のコーヒーを飲む。 そして京間6畳の仕事部屋に座り、執筆をする。 筆が進まなくなったときは近くにある京都御所に行き、広々とした庭に座って観光客やサラリーマンを眺めながら構想する。 これを毎日のように繰り返す。 実際には売り込み営業をしたり打ち合わせをしたりと、その他のスケジュールも絡んでくるのだが、それは些細なことだ。 他の作家がどうかは知らないが、私の生活は悠々自適と呼ぶにふさわしい。
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