0人が本棚に入れています
本棚に追加
ずるやすみ
私には贅沢な悩みがある。
脱サラして5年目、私は小説で生計を立てている。
好きなことをやって生きていくというのは素晴らしいもので、厭味ったらしい同僚や、高圧的な上司と顔を合わせる必要もない。
理不尽な注文を付ける客に頭を下げる必要もない。
私は小説を書くために騒々しい大阪の街から引っ越して、京都の今出川に小さな物件を借りた。
観光客の声は多少気になるが、それに目を瞑ってでも京都の街並みには価値がある。
朝方、「ホォーーーーーー」と声を伸ばしながら行列を作って歩く坊主たちの声で目が覚め(あれは托鉢というらしい)、一杯のコーヒーを飲む。
そして京間6畳の仕事部屋に座り、執筆をする。
筆が進まなくなったときは近くにある京都御所に行き、広々とした庭に座って観光客やサラリーマンを眺めながら構想する。
これを毎日のように繰り返す。
実際には売り込み営業をしたり打ち合わせをしたりと、その他のスケジュールも絡んでくるのだが、それは些細なことだ。
他の作家がどうかは知らないが、私の生活は悠々自適と呼ぶにふさわしい。
最初のコメントを投稿しよう!