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◇
『こっち』の界隈に足を踏み入れて短くはない。
発信機が仕込まれていることを発見する前から薄々勘づいていた。
というより、自分たちのことを人伝でも知っている限り、もはや『表』から見放されている。自分たちはもう『裏』の深いところまで潜り込んでしまっている。
自分の寝起きが悪いことはもう気づいているが、目覚めが悪いわけではない。
早く起きることは好きではないが早く起きれないことはない。
一度寝たからといって長い間眠り続けるわけでもない。自分だけでなく相手も眠りは浅い。昔はどうだったもう覚えてないが、『こっち』に入り込んでから浅くなった。
同居人が何をどうしたいかなんてのは正直「好きにしろ」の一言に過ぎないが、どうしたいかをなんでか察することができてしまう。好きでそうなったわけではないが、付き合いが長いのだから仕方ない。向こうも同じだろうし。
だから、4日目の朝。
央雅が目を覚ました時刻はいつもより早かった。
あいつの事情も依頼主の事情も知ったこっちゃない。そう思い再び目を閉じたが、とうとう眠気すら訪れなかった。
苛立ちながら勢いよく上体を起こす。
眠れないけれど、目が完全に開くわけではない。
半分ほどしか開かない目で、枕元のケータイを手繰り寄せ、時刻を確認する。
8時47分。
世間からすれば遅いのだろうけれど、ある種夜の仕事をしている身からすれば馬鹿みたいに早い。
この時間に起きたらあの同居人にどんな顔をされるか。
そう考えると見る前から腹立たしいが、央雅はベットから立ち上がった。
足音で気づいたのか、ドアを開ける音で気づいたのか、廊下に出ると既に起きていた涼雅が目を丸くしてからにんまりと笑った。
「わーぉ、央雅ちゃん、起きるの早いじゃん。やっぱり気になるんでしょ?」
「ンなわけあるか」
嗄れた声で悪態をつきながらソファーに座る。
テレビをつけ、適当に番組を回す。
芸能ニュース。エンタメニュース。占い。どれもすっとばして、天気予報でリモコンを手放した。
今日の天気は晴れのち曇り。降水確率は0%。
出かけるにはなんの支障もなさそうだ。
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