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「お皿も向けて」
言われるがままに皿を差し出す。
涼雅はその上に卵を乗せた。妙に凝るやつだからおそらく半熟だ。
央雅が寝ぼけた顔のまま相手を見上げると、「嫌いじゃないだろ?」と満足げな笑みを添えられた。朝だというのになんでこんなにも活発なのか。
テレビからも笑い声がいくつも聞こえてくる。
画面に見たことあるような男がアップで映される。その男が何かを言うと、また周囲に笑いが起きた。何か面白いことを言ったらしい。
央雅はフォークを左手に握り、それに麺を絡めず直接口に運び入れた。
「箸にしてあげようかー?」
からかうような声が後ろから飛んできたので、フォークを皿の上に乗せてから同じ手を頭の上まで持ち上げ、そのまま頭部を指すように親指を下に向けた。
テレビと同じような愉快そうな笑い声がキッチンの方に遠ざかっていく。
それを聞きながら央雅は顔をしかめながらパスタを雑に口に運び咀嚼する。
「今日なんか予定ある?」
再びキッチンから出てきた涼雅はローテーブルにコップを二つ乗せた。
右側にシルバーを。左側にブラックを。
央雅は再びフォークを皿に乗せ、黒のコップの縁に口をつけて口の中のものを喉奥に流し込む。
「別に」
からになった口で応える。寝起きの嗄れた声に涼雅が小さく笑う。
「じゃあ食器洗いよろしくー」
しかめっ面を左側に向けると、相手もこちらがを見ていた。
「いいじゃんそれぐらい。ここ最近オフなかったから洗濯物とかたまってんの知ってんだろ? 山になってて邪魔じゃん。どうにかしねぇとさ」
それを言われると耳がいたい。
ここに住んでいるのは自分とこいつだけだ。自分がやらなければ相手がやる。他はいない。気を使うような相手ではないし全てを任せっぱなしにしても罪悪感のようなものは湧かないが、自分が駄目人間へと堕落しそうだという危機感が最後の砦だった。これ以上駄目人間になるのは良くない。それぐらいの意識はある。
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