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涼雅の目線には何もない。
少し下げるとようやく音の主を捉えた。
「へ」
姿を見て、気の抜ける声が鼻を抜けるように出た。
その声を聞きつけた央雅は足音を隠さずに玄関に近付き、正面を陣取っていた涼雅を横に突き飛ばす。
「……」
そこにいたのは少女だった。
普通の様子ではなくどこか怯えた様子ではあるが少女だった。
央雅は涼雅の腰に容赦無く蹴りを入れる。
「イッタ!」
「女漁りは構わねぇけど連れてくるなつったよな?」
凄むと涼雅は素早く両手を上にあげて「違う」を連呼しながら素早く首を横に振る。
「あ? じゃあ知り合いじゃねーのかよ?」
「知り合いじゃないよ! 初見さん!」
「……」
嘘をついているようには見えない。だが、それ以外に人が尋ねてくる理由が見当たらない。
央雅はもう一度少女の姿を確認する。
黒く長い髪を垂らしている。だが手入れはどうも行き届いていないようだ。
服は上下軽装備で、足は膝の少し上から靴があるくるぶし付近まで晒されている。露出している肌はところどろこ傷だらけだ。上はただでさえ短めのズボンの半分を隠すほどの丈がある。袖はわからない。その服の上にぶかぶかの上着を羽織っていた。
そして、縦にすると肩から太ももまで隠れる大きさのバックをすがるように抱えていた。
力強く抱えられているため、バックの中のものの輪郭が少しだけ浮き出ている。けれどそれが何なのかは見当がつかない。
見るからに怪しい少女だ。
それをどうするかは央雅の判断するところではない。
それに。
「お嬢さん、お困りですか?」
片膝をつき、少女に手を差し伸べる同居人に白けた目を向ける。
この男が追い返すことを許すはずがない。
なんなら快く招き入れるだろう。
久しぶりのオフを満喫したがってたのはどっちだよ。
先ほどまで大いに警戒していた自分達が阿呆らしく思え、央雅は隠さずに大きく舌打ちをしてから室内に戻ることにした。
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