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 土壌、海、そして大気の一部が徐々に毒に侵され、爆発的に人類に居住地域にまでその毒牙を掛ける様になるのに、長い時間は掛からなかった。人類唯一の対抗手段は防戦一方で、多くの市民は居住棟と呼ばれる高密度密閉高層建築群に身を潜め、居住棟から外に出る時はガスマスクを必ず着用しなければならない、そんな時代に突入したのが、汚染が初めて確認されてからしばらく経った、十五年前の話である。  特に深刻なのは、大気と水質汚染だった。  生物相は大きく様変わりし、シェルターに保護出来なかった多くの野生動物や昆虫が死滅した。水質汚染は特に甚大で、海洋生物は勿論の事、海底資源まで使い物にならなくなる強烈な毒素が、年々増え続けたのだ。  地上の土壌の七十八パーセント、海の水質や海底資源の三十二十パーセントが汚染された十二年前。一つの世界規模のプロジェクトが稼働し、それから二年という極めて短い歳月を経た後、その計画は実用化まで研究が進められ、実施された。  人魚計画。  シンプルでいて強い印象を与えるその計画は、地球の水質汚染の防止と改善を目的として立ち上げられた。  人魚という生物を生み出した目的は、農作で言う蹄耕法に似たものだった。  蹄耕法とは、主に寒冷地の斜面という、農地に適さない土地を適したそれに変える為、牛や豚などの家畜を放牧する事で、土地を蹄で耕し、除草も可能とする方法の事を言う。人魚計画で言えば、家畜は人魚であり、耕作地は海そのものという事になる。     
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