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ガリーナは椅子に背を預け、サングラスタイプのゴーグルを装着し、赤外線の照射ライトを点灯させる。通常、魚類や哺乳類には視認出来ないライトを使用する事で、不用意に生体を驚かせない様にする為のものだった。頭のすぐ横にある小型レバーを操作し、ライトの向きを調整する。上下左右と前方、それぞれ二百二十度の視界を確保する潜水球の強化ガラスの先には、目立った生物は見られない。ゴーグルのグラスに投影される立体ソナーにも、周囲半径三十メートルに生物の影は映っていなかった。
ガリーナは、足元のペダルも操作する。ゆっくりと、至って静かにモーターは駆動し、潜水球は左に回転する。肉眼でも、やはり何も捉えられない。彼女はそれを確認すると、今度こそ本当にライトを切った。
……この最新鋭の潜水球は、正式名を高性能単式海洋研究潜水艇、と呼ぶ。これを利用する仲間の間では、Submersible of High Efficiency Explorer for One の頭文字を取り、SHEEO……シーオとも呼ばれている。四年前、国連により決議された或る世界的な対策法案の採用と履行に伴う研究成果として開発されたものだ。巨額な初期費用を投資して、世界中へ配備された機体の内の一つである。
法案の履行に際し、反対意見も世界中から出た。しかし、協力した団体や人物には報酬が保証される事が明確になると、特に学術的研究費用に予算を回して貰えない日本の研究機関や企業は積極的にこれを支持する様になり、計画に参加する様になる。
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