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 そしてすぐに再び真剣な顔になり、彼は続ける。「あれを使わなきゃいけない場面が想定される程、今の海は危険なんだよ」  それは違う、とガリーナは否定した。 「サメの出てくるパニック映画を観て、海に行ったら危ないと子供に説き伏せる様なものよ、それは。広大な海であんな例に遭遇するなんて、滅多に無い。それは貴方だってよく理解してるでしょう」 「いや、俺が言いたいのはそうじゃない。海の持つ毒素が、あんな稀なケースを生み出してしまう程影響力の強い物だって事だ。生物の多くは死滅する一方で、過酷な環境を生き延び、適応した生物は、その生体構造を大きく変える。たった半世紀で、だ。これがどれだけ異常な事か、生物学専門じゃない君にはピンと来ないかも知れないが……」 「何が言いたいの」 「国連はこの研究を、地上の土壌環境改善の為だと言ってるだろう。他にも、植物環境、生物環境、大気環境を改善する為に様々な企業や研究者が動いている。全て、それぞれの専門分野でそれぞれの環境を、人が住めるようにする為に研究を続けていると。でも俺は……最近この公表に、疑問を感じているんだ」 「どういう事」 「つまり……」  話そうとしたところで、医務室に近付いてくる複数の声が聞こえた。その内の一つは、女医のものだ。ヨルクもそれに気付いたか、慌てて会話を打ち切る。     
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