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「俺も最初は思った。確かに、たった半世紀で自然界の動物の構造を大きく変える影響力を、今の海の毒素が持っているとは言った。だが、元々毒素に耐性を持っていた自然界の生物が半世紀掛けて自分の体を変えたのに、耐性を持つように作られた人魚は、たった五年だ。いくらなんでも、早過ぎるとは思わないか。アポトーシス……自殺細胞が生物の体に組み込まれている様に、人魚は出産に関する生物細胞のプログラムがあらかじめ破壊される様に組み込まれていたのでは?」  私は早まる鼓動を、深呼吸して落ち着かせる。 「何の意味があるの? 生態系のバランスを破壊する因子を増やすだけでしょう」 「それ自体には意味が無い。自分達が費用を捻出する事無く、合法的かつ合理的に人魚を回収し、解剖する事が……目的、なんだと思う」  躊躇いがちに紡がれるその言葉を聞いた瞬間、ガリーナの体は暗闇の中で硬直した。  海の環境変化とその推移、人魚の与えた影響と成果……それを解析する為には、人魚を回収し、解剖して調べなければならない。海洋研究に資金援助がされる一方で、他の研究機関に資金が回らなくなっていたとすれば、彼らが海洋研究者に与えられた新たな資金と労力を利用してコストカットをするよう考えるのは、寧ろ自然な事だ……  そして、人魚という『生物』を解剖し、その肉体に与えた影響を調べる。人の遺伝子を持つその体に反映される影響と研究結果は、マウスを使った臨床実験よりも確実性が高いのではないだろうか。  つまり。  人魚の目的とは、水質と海底土壌の改善だけではなく。     
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