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 ガリーナの属する研究機関もそうだった。一連の騒動が本格化するより以前、短期に大きな利益飲み込めない研究や開発は国やスポンサーからの十分な資金が得られず、研究は遅々として進まなかった背景がある。だからこそ、四年前から急速に支援の拡大された海洋研究分野の研究者達は、本来の目的を忘れ、国の推奨する計画に積極的に参加する傾向があった。その利潤をより一層拡大させ、研究者の支援を拡大する意味で、人員のコストカットの為、この新型潜水球は一人でも操舵が可能で、記録や研究対象の採集など、研究者としての活動にも負荷を掛けないレベルにインターフェイスがデザインされている。正直な話をすれば、船舶免許を取るよりも簡単に免許を取得出来るし、マニュアル車の操作方法を覚えるよりも簡単だった。ガリーナの様に、四十を超えてから免許を取る事になっても問題は無い程に。 「そろそろ海底だぞ」  無線からヨルクの声がした。ガリーナはゴーグルを外し、ストロボを照射する。視界が一瞬だけ真っ白の闇に染まり、そうして光に慣れた目が、白い海底を捉える。そうして彼女はすぐにソナーを確認し、周囲の魚影を探した。『それ』らしい影は無い。ガリーナはホッと胸を撫で下ろした。  手元のタブレットを引き寄せ、頭上のビデオカメラの電源を入れる。 「見えてる?」 「問題無い。始めよう」  汚染は、かなり広域に渡っている様子だった。ガリーナはシーオを移動させ、着底地点より百メートル前後、周囲を移動して地表を確認したが、地質は全て、生物の居住環境に適さないレベルで汚染されている。ゲージは、常に赤いエリアまで振り切れている。最初、それが計器の異常だと勘違いしてしまった程だ。 「ここも駄目か」  ヨルクの、溜息交じりの呟きが聞こえる。彼の落胆が手に取る様に分かる。ガリーナも同じ気持ちだった。     
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