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 海底は、どこまで行っても白かった。プランクトンの死骸や、朽ちた魚の骨が堆積しているのだ。本来であれば魚の栄養になるし、新しい生態系の苗床となる可能性を秘めた環境である筈だが、マニピュレータを使って解析ボトルへと採取した海底の砂は、どれも毒素を含んでいる。海藻一本生えない理由は明白だ。  半世紀前から始まった土壌汚染と水質汚染は、人類の努力の甲斐あって、その汚染領域拡大速度そのものはほぼ停止した。だが、汚染域が正常な環境に戻る展望は未だ見られない。それは、海底でも同じ事だった。唯一の救いは、ガリーナの愛する海という領域の海底地殻地質の汚染領域が、地上のそれと比べて遥かに小規模であるという事だけだ。今回ガリーナの潜っているこの海域の地表は、例外的に環境が壊滅的なダメージを受けている。或る意味、調査のし甲斐はある。  だからこそ彼女の様な研究員が、海底の地質を研究し、地上の土壌回復の手段を掴めないかと研究を続ける訳だが、四年前に研究の重要性が見直される以前迄の待遇が低過ぎて、満足な成果は挙げられてこなかった。  日本の国家予算委員会は、実利に直結する研究以外には消極的だ。本来、時間と研究費用の賄いさえどうにかなれば、日本の調査チームも重要な研究分野に功績を残せる実力が備わっていると、ガリーナは信じている。そして実際そうだった。研究費に余裕が出来てから、日本勢は海洋生物の生態系に関する研究に於いて、何人かが名を残しているのである。  だから、今こそチャンスだった。     
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