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 地上で体積や重量を増やしても、自重を支えられずに生物は自滅してしまう。植物の巨大化が関の山である。が、海中であれば、その生物本来の重量が多少増加したところで、大きな負担にはならない。消費する食料が増えるのは進化の方向として間違っているが、百年前に比べて人類の数が半減している今、海洋生物の母数自体は昔より増えている。餌には困らないだろう。  しかしそれはそれとして、ガリーナもこれ程の巨大な生物は初めて目にする。シーオを移動させて骨の全容を観察してみるが、全身の骨は殆ど流されずに残っている様だ。ガリーナは鼻で笑って言う。 「明日は、洋次が潜る番だっけ? 彼、きっとここに張り付きっぱなしだね」  海上の調査船には、複数の研究チームが乗船している。これも、シーオを各班で使い回しコストを削減する為の方針だ。その中に居る、生態系調査を専門にする若い日本人研究者の名前を挙げた。ははは、とヨルクが笑う声がした。 「引き上げようとしたらきっと、チューブをパージして延長しやがるぜ」 「言えてる。……?」  ガリーナも笑おうとしたところで、奇妙な音が聞こえた。おおおん、という、低い様な高い様な、体に直接響く音だ。「聴こえた?」 「何が?」 「これ」  どうやらヘッドセットのマイクからは聴こえなかった様で、ガリーナは集音マイクのスイッチを入れる。再び、あの音がした。同時に、ソナーにも反応がある。 「まさか……」  一つの可能性がガリーナの脳裏をよぎる。刹那汗が吹き出し、体が硬直した。そんな彼女の呟きに対し、「いいや」と察したヨルクが答えた。     
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