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「これは、クジラの鳴き声だ」  気を落ち着けてソナーを見れば、魚影は確かに、巨大な哺乳類のそれだった。動揺を悟られまいと、ガリーナは息を整えてから言う。 「洋次が、もっと嫉妬するね」 「……そうだな」  そんな彼女の腹の中は読まれているのだろう。何も無かったかの様に、ヨルクは当たり障りのない返事をするだけだった。  確かにガリーナの言葉は、半分は自分の動揺を隠す為のものだ。だが、もう半分は本音である。 「だって、ほら」  彼女はストロボを消し、ゴーグルの赤外線スイッチを入れる。そうして赤外線ライトの光度を最大にして、頭上を照射した。  ガリーナの視界に、巨大なクジラの腹が入り込んだ。目の前の白骨化したクジラと同等か、或いはそれ以上の大きさだ。シロナガスクジラの成体全長である約二十五メートルを、悠に超えている。体積は三倍程だろうか。容易に拝む事の出来ないその勇姿が、荘厳にガリーナの頭上をゆっくりと通過していった。  ガリーナはしばらく無言で、鳴き声と共にクジラが視認範囲の外へと去っていくのを見守っていた。そうした後に、彼女はストロボの電源を切り、マイクに声を送った。 「今日は、もう終わりにする」 「OK」     
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