同窓会、そして、告白。

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「普段、普通に暮らしてると、あんま感情剥き出しにしたりされたりってことないじゃん。激しい感情を表に出すのはみっともないし、恥ずかしいから。それが、赤の他人からあからさまな怒りとか負の感情をぶつけられるって、ちょっと空気が変わるというか、いつもの日常から浮いた感じになってスリリングなんだよな」  冗談にしては、解説が長すぎた。梶野は本気だ。そして彼は…。 「変人?」 「さっき、そう自己申告したけど」  急に喉の渇きを感じた千晶は、うっかり握っていたジョッキのハイボールを水のようにゴクゴク飲んでしまった。おかげで咽ることとなり、隣に座る梶野に背中をさすられた。考えすぎとは思いつつ、ただの同窓生に触られるのとは微妙に異なる感覚になった。 「はぁ…。大丈夫、もう大丈夫だから」 「驚いた?」 「いや、そんなことないけど…。あぁでも、」  千晶は今度は間違えずにグラスの水を飲み下し、気持ちを落ち着けてから言った。 「怒りたい人がいて、怒られたい人がいて…需要と供給が合うってことはいいんじゃない」  そして、世間には怒りたい人は多くても、怒られたい人は少ない。そう考えると、梶野の出世は当然のことに思われた。 「でも、それももう、終わりかな。異動の話が出てるし」 「そうなの…」 「課長にならないかって」 「ん?良かったじゃん」  同情モードに入りかけていた千晶は、肩透かしを喰らった。 「良くないよ。たたでさえ怒られたり叱られたりの機会が少なくなってるのに、これ以上、上の役職いったら自分が叱る立場になって、ますます人から怒られなくなる…」  これは、梶野なりの悩みなのだろうか。だとしたら、千晶には理解のできない悩みだった。 「…出世するの、嫌なの?」 「収入が増えるのは単純に嬉しいけどね。やりがいは減るなぁ。結局、前の会社もそれで辞めちゃったし」  中途採用で現在課長代理。同情よりも嫉妬が先立つ千晶だった。 「昇進すればするほど、客や上司に謝るより、部下に注意することが求められちゃって…。でも、転職は避けたいんだよな。やりがい云々以上に、今と将来の生活費稼ぐことが大事だから」  色々違いはあり過ぎるが、後ろの一文だけは、千晶の今現在の心持ちに近かった。
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