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9月初め、フィリピンの東で発生した熱帯低気圧は、温暖化の影響か、すぐに台風に成長した後、ノロノロと北へ向かった。
その間、南の暖かい海の高温多湿な空気から、大量のエネルギーの補給を受けて、日本に到達する頃には、猛烈な勢力の台風へ成長した。
学園長の松下涼子は、自室で天気予報を食い入るように見ていた。
今は夜中の10時過ぎ。強い風雨が窓ガラスを叩き、時々、ゴーっという地鳴りのような音が部屋の空気を震わせている。
猛烈な台風が接近しているので、生徒は午前中で授業を終わらせて帰宅させた。
嵐になりそうなときは、教員数名が学校に泊まり込むことになっているが、松下には学園内に色々不安の種があったので、今夜は自分も泊まることにした。
松下が学園長を務めるカトリック系の私立F女子学園は、今年で創立100年を迎える伝統ある中高一貫の学校だ。
都心にありながら、緑あふれる広い校内に冷暖房完備の校舎の他、礼拝堂や有名建築家が設計した講堂、広い競技場や多目的ホールなどがあり、全国の女子生徒の憧れの学校である。
ただ、歴史ある学校だけに、建物の老朽化が進み、あちこちで雨漏りや壁の剥落などのトラブルが起きており、補修が間に合わないのが現状だ。
もちろん、建て替えるのが一番早いのだが、費用のことより、卒業生からの『伝統ある校舎を壊すのはけしからん』とのクレームの方が頭が痛い。
さらに、校内にある大木の数十本が寿命を迎えていて、枝が枯れている木も少なくない。
学園には専属の庭師がいるが、こちらも剪定が間に合わないのだ。
―今夜は何か悪いことが起きそうな気がする・・・
そう思った松下は、部屋を出て『お御堂』と呼ばれている礼拝堂へ向かった。
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