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礼拝堂に入ると明かりも付けずに、正面に安置してある十字架の前に跪いて、両手を組んで祈りをささげた。
十字架の左側のステンドグラスの近くにあるマリア像が、微笑みを浮かべてこちらを見ている。
築100年の礼拝堂は、過去に何度か補修や耐震工事は施したものの、今回の暴風雨では、建物全体が絶えず揺れて嫌な軋み音を堂内に響かせていた。
両側にある聖書の登場人物たちがデザインされたステンドグラスは、強風の直撃を受けて、まるで呼吸をしているかのように何度も膨らみ、今にも割れそうだった。
「どうか、神のご加護で、このお御堂を・・・」と、松下が言いかけた時―
ドン!! バリバリ!!
左側の一番奥にあるステンドグラスの窓を、何かが突き破った!
それはマリア像を直撃し、台座ごと像を倒した。
ガシャーン!という音と共に、白いマリア像は中央部分から真っ二つに割れ、胸から上の部分が、倒れた勢いで吹き飛ぶようにして、跪いた松下の前にやって来て、その無残な姿を晒した。
松下はたまらず、マリア像の頭を抱くようにして、「マリア様!! マリア様!!」と叫び続けた。
ふと、松下は礼拝堂内に気配を感じ、周囲を見た。
―なにかいる・・・
見えないので正体は分からないが、それが『よくないもの』であることは、本能で感じ取った。
背後の扉が開いた。轟音に気付いた教員たちが、礼拝堂に駆け付けて来たのだ。
彼等は、礼拝堂の傍にある御神木ともいえる樹齢数百年のイチョウの木が、まるで礼拝堂を横から剣で突き刺したかのように、ステンドグラスの窓から伸びているのが見えた。
割れた窓からは風雨が吹き込み、イチョウの葉が耳障りな音を立てて擦れ合っている。
その傍に、ずぶ濡れになりながら、壊れたマリア像の頭を抱きかかえた園長が、放心状態で床に座り込んでいた。
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