悪霊のタイムライン

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②『異常事態』  翌朝は、台風一過の青空とはならず、低い雲が吹き返しの風によって、先を急ぐように素早く空を流れていた。  F女学園高等部3年生の保坂亜紀は、イチョウの大木によって一部が破壊されたお御堂を、他の野次馬の生徒と共に見物していた。  すでにお御堂の周りには工事現場で見かける黄色と黒のバリケードがいくつも置かれていて、立ち入り禁止になっており、その前で数十人の女生徒たちが、不安そうな表情を浮かべていた。中には十字架を握りしめて一心に祈っている者もいた。  亜紀はそこまで信心深くはないが、やはりあの大木がお御堂を突き刺すように倒れているのを見ていると、不安な気持ちが徐々に広がって行った。  ふと、野次馬の生徒の中に、見慣れない顔があった。  上下グレーのブレザーの制服で、胸元に小さ目のリボンが見えるから、自分と同じ高等部の生徒だ。ただ、えんじ色のはずのリボンが、なぜか黒い。  背丈は亜紀と同じぐらいだから、160cmくらい。髪はショートボブで、目は二重でぱっちりしている。いわゆる『美少女』のカテゴリーに入るレベルだが、薄い唇の端に微かに笑みを浮かべているのが少し不気味だった。  亜紀は隣にいる友人の真理子に尋ねた。  「真理子、あの正面にいるショートボブの女の子だけど、知ってる?」  「ショートボブ? どの子?」  「ほら、背の低いポッチャリの子の隣にいる子」  顎を動かしてショートボブの子を教えるが、真理子はけげんな表情で、首を何度も左右に動かして、  「ショートボブの子なんかいないじゃん」  「うそ~!」  もう一度、亜紀がショートボブの子がいた場所を見る。  やはりいる。しかも亜紀の方を見て、あの怪しい微笑みを浮かべている。  「ほら、あの子よ」  小さく指差すが、真理子は忙しく首を動かすだけで、見つけること出来ない。  ―まさか、私だけ見えるの?  下を向いて考えた後、亜紀が顔を上げると、あの子は消えていた。  ポケットの中のスマホが震えた。
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