夢でしか会えないあなた

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「それも違うわ。私は確かに存在する人間よ。だって、私はこうしてあなたに会いに来たから、私のお父さんに会いに来たんだから…」ハッ、と男は目が覚めた。時計の針は七時を少し回ったところを指していた。男にしてはだいぶ早い目覚めだった。“酷い夢を見た”と男は肩を落とした。なぜなら存在しない自分の娘と会話するとゆう夢を鮮明に見たからだ。だが、彼はこの日の夢をすぐに忘れてしまうのであった。それもそうだ、三日前に十五年連れ添った妻がマンションの管理人と蒸発したのだから。 今年四十五歳になった男の元に残ったものは自分の名義で妻が作ったなかなかの額の借金と愛犬のシーズーのピケだけであった。 男と前妻には子供が居なかった。男は妻を愛していたし、事を怠ったわけでもなかったのだが、実りはしなかったのだ。これは相性とかの類の話になってしまうので、彼にはどうしようもない事だった。そして男は今、昔からよく周りの知人、親縁に言われてきた“子は鎹”という言葉の意味の十年分がまるでボディーブローのように蓄積されて来ていて、ついにノックアウトされてしまったかのように男を失意のどん底へと突き落としているのであった。だが、そんな男にも平等に時は流れていくのである…     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加