第一章 播埀国――火の戦

6/27
187人が本棚に入れています
本棚に追加
/541ページ
   2  だくだくと血が身内を駆け巡る音が頭の中にずっと響いている。そのうるさいほどの音が、兵たちの(とき)の声によって一瞬かき消された。  那束(なつか)は周囲を見やる。(つわもの)一同、殺気立った目で自分を見つめていた。 (ああ、獣の眼だ)  播埀国(はたしでのくに)王家一族の首長(おびと)殿舎(あらか)を目の前にして、獲物の首を早く欲しがっているのだ。  とめどなく噴き出す汗で視界が曇り、那束は額をぬぐった。乾いた汗とも泥ともつかないざらりとした感触に思わず(たなごころ)を見やると、赤黒い血がへばりついていた。  ぎょっとして見やれば、掌ばかりでなく手甲(てっこう)までも真っ赤に染まっている。甲冑(かっちゅう)下袴(したばかま)も血を浴びたように真っ赤だった。  そう。浴び続けていたのだ。敵兵(つわもの)どもの返り血を。
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!