第一章 播埀国――火の戦

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(後ろで守っておこうと思ったのに)  呟いた亜耳利(あじり)の脳裏には、先ほどまでの(あるじ)の戦いぶりがまざまざしくひらめいていた。  ――地の利もない異国(とつくに)での戦。数の上でも圧倒的に不利であった日高見軍は、四方(よも)から囲いこむように攻めてくる播埀(はたしで)軍に退くこともできない状況であった。  将軍(いくさのきみ)の補佐役である副将(そえのきみ)でありながら、初陣(はついくさ)那束(なつか)に代わり軍の指揮をとっていた亜耳利は、降伏を判断した。――その時だった。  那束が隠れている幌車から、火の粉を散らしながら火矢が幾筋も飛んでいった。ぎょっとするやいなや、今まで凪いでいたのが嘘のような風がおこり、(ほのお)を煽り、火炎(かえん)は瞬く間に地を舐めて、風下にあった敵兵を呑み込んでいったのだった。  そして火の手の回らなかった前線に、那束が軍神(いくさがみ)のごとく躍り出たのだ。  那束は、波のごとく打ち寄せる敵兵の太刀をことごとくかわし、矛先を避けて、ひとりひとりの急所を確実に切り裂いていった。(つわもの)たちの目に、その姿はさぞかし心強く、奇跡のように見えただろう。 image=511677640.jpg
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