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「ちびの主人、ちびの主人。開けろ、開けろよう」
チャンスはちびの主人の部屋の前まで来ると、後ろ足で立ち、カリカリとドアを前あしでひっかきました。
するとガチャリとドアが開いて、ちびの主人のさとるが出てきました。
「なんだばか犬」
「なんだと! ちびの主人のくせに!」
「ちびっていうな!」
「ばかっていうな!」
と、こんな会話が彼らのいつもの会話のはじまりかたでした。
ほんとうにケンカをしているわけではないので、安心してくださいね。
「ふんっ。あ、ねえねえそんなことよりちびの主人。冬の合図ってなに?」
「え? 冬の合図?」
「うん。お父さんとお母さんが話してた。楽しいんだって言ってた」
「冬の合図かぁ」
さとるはすこし考えて、言いました。
「カエデの葉が落ちるときのことかなぁ。雨みたいに、わーってたくさん葉っぱが降ってくるんだよ」
「楽しい?」
「んー。楽しいんじゃないかなぁ。カエデの葉っぱで遊ぶの、お前すきだから」
「葉っぱすき! 行きたい!」
チャンスが目をかがやかせ、ベロを出してニコニコ笑い、しっぽを振ると、さとるくんはむずかしそうな顔をしました。
「うーん。むりだと思うな」
チャンスはワンッ! とほえました。「なんで!」
「だってカエデのある公園は遠くて、くるまじゃないと大変だよ。霜が降りて葉っぱが落ちるのは朝だから、お父さんがくるまを使ってて行けないし、そもそもぼくは運転できないし……」
チャンスは今度はワンワンッ、キャンキャンッ、とおおきな声でわめきました。「なんで! なんで! いやだ! 行く! お父さんに言ってよ!」
「わあ、もううるさいよっ。ほえるなよっ。ぼくだって連れていってあげたいけど、運転できないし、無理なものは無理だよっ」
くるくる回りながらチャンスはほえました。「うるさい! ちびの主人のくせに! 連れてけ! 連れてけ! ワンワンッ! キャンキャンッ!」
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