第1話 

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(男が資料の一枚であるスクラップブックを持ち上げ、何枚目かのページを開く。中には ピンボケした写真が大きく貼り付けてあり、内容は薄暗い路地に立つ 溶接マスクをつけた怪人の写真。資料説明文には“1992年。S市郊外、住宅跡地にて 血痕付きカメラから回収。撮影者は首が欠損し、死亡を確認。 持ち物から同市タウンニュース専属のカメラマン田所氏(死亡時33歳)と判明。 カメラ自身も破損が激しく、現像できたのは、これ1枚のみと記載がある。 追加メモと記した項目に “同氏は地元怪談についての取材中、事件に遭遇したものと見られる” との記録がある。 隣に散らばる比較的新しいレポート用紙には日付2週間前の記載があり、旧港湾跡地で の変死体と“溶接マスクの怪物再来?”と文字が書かれ、住民目撃のスケッチが 添えられている。) 磯村: (私が住む神奈川県S市は、程よい山間部と広い海に挟まれた 中規模な都市である。かつては海で漁業、山では林業が栄え、それに伴う人口の増加も あった。だが、20年程前から潮の流れの影響で漁が衰退傾向に入り、山は世代交代の 後継者が上手く育たず、廃業が相次ぐ次第となった。それに伴い、市が展開した公営団地や施設の廃業、関連会社ビルの閉鎖も相次ぎ、山、海沿いには無用の長物然とした廃墟群が 犇めく“荒廃都市”としての様相を見せ始めている。 勿論、再開発や新規事業による計画もあり、いくつかの地区は工事が入ったが、 数年前の震災、それに続く不況。更には、政府がやたらと宣伝する景気回復の 兆しも、実質は企業が得た利益を民間レベルに“還元”せず“保持”を強行した結果、 一行に進む気配がない。  
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