第1話 

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市民の生活は節約傾向に入り、夜9時以降の外出は皆無と言っていいほどに減っていく。勿論、それに伴うサービス業種の店舗閉鎖、営業時間短縮が当たり前となっている。 緩やかに後退していく現代社会の縮図を色濃く表す我が町だが、 これは、よっぽどの都会でもない限り、何処も同じ様子だろう。 他と違うのは、今現在、我が町で囁かれている“怪異”の事だ。 噂の都市伝説は“溶接マン”という。赤黒く錆びた溶接工が用いるマスクを被り、血しぶきで汚れたレインコートを着ている不審者だ。 性別不明、身長は大男のようだとも言われているし、小山のようだったと嘯く話もあった。何故、溶接工のマスクなのか?それはわからない。ただ、それに会った者はほぼ例外なく “死ぬ。” 姿形などの詳細がハッキリしているのは、被害者達が残した遺品である 携帯のデータや、写真、付近を通った目撃者達が怪人の姿を見ているからだ。 ここまでは、ネット上に漂う、ありふれたフォークロア(噂話)に過ぎないが、 実際に死者と目撃情報が多数出ている事が、真実実のあるモノとして、より恐ろしい。 紹介が遅れた。私はフリーで雑誌編集に携わる者である。雑居ビルの一室をプロダクションとし、都内の出版元から受けた依頼をこなすのが生業だ。今回の仕事は怪談雑誌の特集で、一般の人から投稿された作品や、ネットで気になる都市伝説などを検索している最中に “これ”を見つけた。まさか、自分の住んでいる町で起きた事件とは思わなかった。 確かに報道で、原因不明の通り魔事件がここ数年で起きている事は知っている。警察も 犯人の特定は出来ていないし、まさか溶接マンの仕業と言う訳は、ないだろう。 しかし、こんな衰退した地元で、アメリカのホラー映画に出てくるような怪人が 闊歩するとは… “とても興味が沸いた。”始めの第一印象だ。今は憑かれてると言っていい。どうやら、 この事件は今に始まったものではないらしい。使用している一室には、溶接マンに関する 資料が山とある。 これは地元の郷土資料館に勤める友人“江口”のおかげだ。彼の言葉を借りれば、 この怪人が関わったであろう事件は江戸や、明治、戦前、戦後にも同様の記録があるそうだ。また、件数も時代によって頻度が変わるのが、興味深いとあいつは言っていた。
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