第1話 

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戦前以前のモノは転々としたものでしかないが、S市で起こったのだけでも、 終戦直前1945年に5件、67年~74年に3件、89年~93年に4件。 2004~08年に3件、そして現代11年~18年の今年にいたるまでで、 港湾跡地で起こった事件を含めれば4件になる… この頻度には共通点がある。必ずだ。そして溶接マンとは何者か?不死身の化け物? 何世代にも渡って世襲される殺人鬼?非現実的な事は重々承知だ。 私はそれを調べ、今度の雑誌で特集を組む予定を立てている。これに対する世間の反応も 気になるが、それよりも真相を知りたい気持ちが、最近では勝っていた。 資料を漁る手が止まる。共同用エレベーターが、この階で止まった事を知らせる音が、 耳に響いたからだ。雑居ビル4階に事務所を構えてはいるが、 下3階は無人、先週までは2階に会社が入っていたが、今は無くなっている。 私の方で来客の予定はない。 磯村:「一体誰だ?(呟き、資料室のドアを開ける。)」 窓を塞いだ資料室のせいでわからなかったが、時刻は夕方のようだ。オレンジの光が、 薄汚れた廊下を照らしている。少しの眩しさに目を細めた視線が“来訪者”の姿を探す。 磯村:「…嘘だ…」 前方のエレベーターホールと廊下を繋ぐ踊り場付近に“それ”は立っていた。乾いた血の ような赤で固められたビニールのレインコート。頭上に載っかるのは、真っ黒いマスクと こちらを捉えた四角い覗き口。 磯村:「溶接…マン…?」 2、3歩後ずさってしまう。取材対象の“怪人”が立っている。何故ここに?疑問と恐怖が体を支配し、足を震えさせた。手にまで伝染したそれを何とか抑え、携帯を取り出す。 通報する前に、開けたドアを盾に、廊下をもう一度覗く…いない…いなくなってる。 気のせいだったか…?そりゃそうだ。溶接マンがこんな所に来る訳がない。ほっとすると 同時に、思いついた考えを慌てて引っ込め、再度自答。  
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