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これ以上聞いても混乱すると、優子は頭を振って違うことを聞いてみる。
「ポチって、どんな人だったの?」
「……」
「玉村さんの友だちだったんでしょう」
あの暗い地下駅に置いてあった骨壺に、玉村は、
「ポチ」
と呼びかけた。
ポチが死んでいることは、優子にも十分わかった。
シンの仲間で玉村の友だちだった人物だ。
それがなぜ、あんな場所で、ひとり寂しく葬られなければいけないのか。
玉村は懐かしそうに、フロントガラス越しに遠くを見つめ、
「ポチはオレたちと昔からつるんでたダチだよ。ポチ、タマ、ぽん太ってね」
懐かしそうに言う。
その呼び名は反保の口からも聞いたことがある。
なるほど、シンの仲間とはそういう意味なのかと納得しかけた優子に、玉村は、
「シンさんに殺されたけどね」
サラリと続けた。
思わず、言葉を無くす優子を尻目に、
「シンさん!」
突然、玉村は後部座席に向けて大声をあげる。
優子はビクリと身を震わせる。
「ポチだけど……」
言いながら、玉村は胸ポケットからさっきの骨壺を取り出してきた。
骨壺の中身はポチという人物の骨。
シンの仲間で玉村の友だちで、そしてシンに殺された男の骨!?
玉村は無造作な手つきで、骨壺を後部座席に放ってみせる。
「あ!」
思わず目で軌道を追うと、シンが片手をあげ空中でそれを受け止めた。
しかしはめ込んであっただけのフタが、ポロリと落ちる。
「――」
「またいなくなっちゃったんだ」
玉村。
「……え?」
「ポチがいない」
なんと骨壺の中は空だった。
優子が見たのは、骨壺の中のぽっかりとした空洞だけ。
玉村は、
「ホント、どこ行っちゃったんだろうねぇポチ」
長閑にのんびりとした声で言うが、その声音が、途方もなく冷え冷えと聞こえる。
「……ねぇシンさん。シンさんは知らないんだよね」
ルームミラーで後部座席を確認する玉村の目が、緩やかにカーブを描いていって――。
玉村が顔に浮かべた優しげな笑みが、優子はたまらなく恐ろしい。
――了――
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