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シンとタマがふたりで乗り込んだのは、河内組という名の暴力団組事務所だ。
さして大きな組事務所ではないし、指定暴力団でもない。
せいぜいが街のチンピラどものまとめ役といった事務所だが、そんな名もない組に何故シンがいるかといえば、
「――」
「ひいっ」
最後に無傷のまま残された事務所で一番大きな机に腰掛けていた男は、この事務所の組長、河内。
シンのひと睨みに小さく悲鳴をあげる。
「勘弁してくれ、お前らいったい何が望みなんだ!」
態度はまったく組長らしくない矮小で度胸もない男だ。
「言え、金ならある。どこの組のまわしもんだ」
シンとタマを他の暴力団のカチコミだと思っている。
残念なことにシンは暴力団ではない。
無言のまま、不穏な音を響かせて三段ロッドを伸ばしてみせるシンは、暴力団よりよっぽどたちが悪い。
「ひいっ」
物も言わず威圧するシンに、
「シンさん、シンさん」
タマが声をかける。
「殴っても言うことをききませんよ、こいつ。ちゃんと説明しないと。犬じゃないんだから」
「っ――」
曲がりなりにも暴力団組長を犬呼ばわりするタマに、シンは、
「殺した方が早い」
ボソリと言う。
「ひいっ!」
犬より扱われ方がひどい。
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