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いくら暴力団でも、何でもかんでも好き放題に振る舞えるわけではない。
暴力団には暴力団のルールがある。
しかしこの辺りでは、どこの組もまだ女子高生ビジネスに手をつけていなかったはずだ。
それだけの調査をして始めた仕事だが、その売れ行きがいいとなれば、強者の特権とばかりにウワマエを刎ねに来る。
河内は、
「わかった。ちゃんと上納金は払うから、だから見逃してくれ」
シンに両手を合わせた。
シンほどの男を抱える組が、生半可な組織であるわけがないと考えたのだ。
だがシンは、
「上納金なんていらない」
「え?」
「ビジネスから手をひけ」
「――へ?」
意味がわからない。
暴対法の影響で、どこの組も資金繰りには苦労しているはず。
だからJKビジネスのお陰で羽振りのいい河内組が目を付けられたと思ったのだが、
「商売を、やめろ?」
仕事そのものから手をひけなんて、わけのわからないことを言われる。
せっかく作り上げたJKビジネスのシステムそのものを乗っ取るつもりかと、
「冗談じゃねぇ。それじゃあ俺たちに死ねって言ってるようなもんだ」
思わず声を張り上げたら、ヒュンと風が鳴って、河内の髪が舞い上がった。
即座にパッと赤い血が飛び散り、耳がピリッと痛む。
撃たれた、と思ったが音はない。
サイレンサーを使ったとしても、この至近距離だ。
多少なりとも発砲音は聞こえるはず。
だけど、銃の代わりにシンの手に握られていたのは、特殊警棒。
シンはそれをクルリと手の中で回して、切っ先を河内の眼前に突きつける。
「次は、目をえぐる」
淡々と告げるシンの瞳には何もない。
苛立ちや怒りといった感情も、人を殺そうとする興奮も、何も見えない。
ただ、
「――」
深く昏い沼の底のような深淵があるだけだ。
「……わかった。やめる」
河内の口からは、自然にその言葉が漏れた。
本心かどうかなんて、河内自身にもわからない。
ただこう答えていなければ確実に、
『殺されていた』
それだけが事実だ。
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