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その時、
「ラジオ体操第一、よぉーい」
チャンチャラーチャチャチャチャ、チャンチャラーチャチャチャチャ~。
夏休みの朝にはおなじみの、あの前奏が部屋の緊張を破ってなり始める。
「……へ?」
思わず息が抜けるような声を漏らす河内に、
「シンさ~ん」
ガクリと膝から崩れ落ちるタマ。
「携帯の電源ぐらい切っといてくださいよー」
タマの泣くような訴えを無視して、シンはズボンのバックポケットから携帯を取り出すと画面をスライドさせる。
『あ、出るんだ』と河内は頭の隅でぼんやり思った。
ついさっきまで殺されかけていた緊張感がウソみたいに、
「はい、もしもし」
シンはまったく当たり前の顔をして電話に出た。
すると、
「ギャハハハハ!」
電話の向こうから弾けるような女の笑い声。
「びっくりした? 驚いただろうパパ」
スピーカーホンにはしていないはずなのに、かまわず聞こえてくる相手の声。
『どれだけ大声なんだ』とまばたきしている河内の前で、シンは少しだけ不満そうに、
「いつの間に俺の電話の着信を変えたの?」
「いいだろうソレ。パパは普段から寝ぼけ顔なんだからさ。ラジオ体操でもしてシャキッとしろよ」
底抜けに明るい女の声が聞こえる。
しかもその声の主は、シンのことを、
「パパ」
と呼んだ。
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