キンモクセイ

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『パパ? パパって何のことだ?』 混乱して単語の意味を考える河内の前で、 「うん、悪いけどさツボミ。今ちょっと仕事中なんだ」 シンはボソボソとした声で会話を続ける。 ちょっとうつむき加減の横顔に長めの前髪がかかって、その表情はまったく見えなくなる。 「仕事中ってパパ、まともに仕事なんかしてねーじゃん。あ、わかった。玉村のオジサンの手伝いか?」 「うん、そんなとこだよ」 「そっか、そりゃあ邪魔して悪かったな。玉村のオジサンに迷惑かけるんじゃねーぜ」 「うん。だからツボミ用件はなに?」 「用件なんかねーよ。その着信音をパパに聞かせたかっただけ」 電話の主は、また、 「ギャハハハハハ!」 元気よく笑うと、唐突に通話を切ってしまった。 「……」 「……」 「……」 静まり返る室内。 河内は思わず肩をすくめるタマに目をやって、それから再びシンに視線を戻す。 シンは通話の切れたスマホの画面を、佇んでただ眺めている。 「……」 もしかして今なら逃げられるんじゃないかと、河内がそーっと踵をかえそうとすると、サッとシンの手首がひるがえり、 ――ガン! 特殊警棒で天板をひと叩きされたナラ製の書斎机が、河内の目の前で真っ二つにされた。
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