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玉村は身軽に線路に飛び降りた。 慌てて優子も続く。 暗くて不安だが、そんなことを言っている場合ではない。 と、 「やあ、しばらくぶりだね」 突然、玉村が暗闇に向かって声をあげる。 優子はビクリと身をすくませ、でもすぐに目をこらすが、そこには何も見えない。 ただ純粋な闇があるだけだ。 思わず、ゾッとする。 まさか世俗を捨てると同時に、光さえも必要としない人間が存在するのか。 しかしすぐに、首を振ってその考えを否定する。 「いいえ、この人たちがちょっとオカシイだけよ」 玉村は光がなくとも、迷いなく歩いていく。 恐ろしいほど夜目が利く男だ。 玉村もシンも夜目が利く。 そして多分この相手も同じ人種なのだ。 ところが、玉村はその場にふとしゃがみ込む。 「?」 あんな大きさの人間はいない。 まさか犬とか猫とかの話なのか? もしや玉村が、動物をトモダチなんて呼んでいるのなら、そいつが光源を必要としない理由もわかる。 暗闇でも平気で当たり前だ。 でもそれじゃあ、拾った子犬をこっそり育てる小学生みたいじゃないか! 思わず微笑ましい気分になって、優子も髪をかき上げながら玉村の手元にライターを向けた。 そしてそこには、 「――」 白い、高さが10センチほどの、――小さな骨壺があった。 玉村は手を伸ばして、その骨壺を片手で拾い上げる。 そして親しい友だちに語りかける調子で、 「――ポチ――」 と呼んだ。
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