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やっぱりまだシンは、優子を行動不能にすることぐらい簡単そうだ。
手に力がある。
ただ掴んだ手が死神のように冷たくて、優子はゾッとした。
同時に、ふと背後に立つ気配を感じて、
「――ヒャッ!」
優子は小さく悲鳴をあげる。
当然そこにいたのは、
「……玉村さん」
玉村だ。
他にヒトがいるわけがない。
「黙って近づいてこないでよ。足音ぐらいたてなさいよねっ」
優子は怒鳴るが、玉村は優子をスルーして、
「オレを黙ってここまで来させるなんて、シンさん思ったより弱ってるね」
どこか楽しそうに言って、やおらシンの肩をグイと担ぎ上げる。
「触るな!」
シャキッとあの特殊警棒を伸ばす不気味な音が聞こえたが、玉村は、
「ムダだよ。オレはあんたを簡単には死なせない」
「……」
「これぐらいの痛みじゃ、ポチに比べたら全然足りないよ」
そしてふたりは歩き出した。
足元も危うい暗闇の中で、優子の持つライターの灯りだけでは、ふたりに何が起こっているのか見ることは出来ない。
ただ闇の中、玉村の声だけが聞こえる。
「あんたはもっともっと血にまみれればいい。じゃなきゃあポチも浮かばれないよ」
玉村の声は、優子がこれまで聞いたことのない低いトーンだった。
灯りが無くても、構わずどんどんと歩いていくふたりの背中は、鼻を包まれてもわからない暗闇の中に消えていく。
「……」
出口に向かっているはずなのに、ふたりが行くこの先には得体の知れない何かが待っているようで、優子はつい、足を止めてしまう。
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