11/12
前へ
/78ページ
次へ
地上に戻って、玉村はシンを、乱暴な仕草でワゴン車に押し込んだ。 後部座席に転げ込んだシンは、 「……ぅ」 小さなうめき声をあげる。 明るいところに出てみると、シンのコートは見てわかるほどに血で濡れている。 ぷんと強い臭いが鼻をついた。 「帰ったら輸血だね」 呑気な調子で言う玉村に優子は、 「あんなにヒドかったの」 「何が?」 「あのヒトが自分で刺した傷」 シンは優子たちが見ている前で、いきなり自分の腹を刺した。 山田が声を限りに優子の命乞いをしている時だ。 何を思ったのか、シンは自分で、自らの腹に警棒の先を突き立てた。 玉村はなんてことない風に、 「まあ、しょうがないよ。シンさんはキミを許す代わりに、自分が消えることを選んだんだ」 姿を消すことが、イコール自分を殺すことでなくてもいいのに、と優子なんかは思ってしまう。 消えたければ、どこかでひとりで生活すればいいのだ。 大人なのだから。 なのに、自分の業であんなに酷い傷を負うなんてこと、そんなの絶対に変だ。 しかし玉村は、 「言っただろう。シンさんは今回のことで誰も許さない。本来は誰ひとり生かしておく気はないんだ。もちろん自分自身も含めてね」 「……」 やはり、この大人たちは、優子には理解できない。 人種が違うとしか思えない。 同じ言語をしゃべっているはずなのに、何を言っているのか、ちっともわからない。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加