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地上に戻って、玉村はシンを、乱暴な仕草でワゴン車に押し込んだ。
後部座席に転げ込んだシンは、
「……ぅ」
小さなうめき声をあげる。
明るいところに出てみると、シンのコートは見てわかるほどに血で濡れている。
ぷんと強い臭いが鼻をついた。
「帰ったら輸血だね」
呑気な調子で言う玉村に優子は、
「あんなにヒドかったの」
「何が?」
「あのヒトが自分で刺した傷」
シンは優子たちが見ている前で、いきなり自分の腹を刺した。
山田が声を限りに優子の命乞いをしている時だ。
何を思ったのか、シンは自分で、自らの腹に警棒の先を突き立てた。
玉村はなんてことない風に、
「まあ、しょうがないよ。シンさんはキミを許す代わりに、自分が消えることを選んだんだ」
姿を消すことが、イコール自分を殺すことでなくてもいいのに、と優子なんかは思ってしまう。
消えたければ、どこかでひとりで生活すればいいのだ。
大人なのだから。
なのに、自分の業であんなに酷い傷を負うなんてこと、そんなの絶対に変だ。
しかし玉村は、
「言っただろう。シンさんは今回のことで誰も許さない。本来は誰ひとり生かしておく気はないんだ。もちろん自分自身も含めてね」
「……」
やはり、この大人たちは、優子には理解できない。
人種が違うとしか思えない。
同じ言語をしゃべっているはずなのに、何を言っているのか、ちっともわからない。
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