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ビワ
後日、豪華客船クイーン・セレーネについて報道されたのは、驚くことにキャプテンの海上への落下事故のみだった。
船内を見回っていたキャプテンが、足を滑らせて海に落ちて行方不明。
それだけが新聞に小さく載っただけで、セレーネは次の港に向かって出航していった。
次の港では、もう新しいキャプテンが乗船するそうだ。
セレーネの中でツボミたちが見た闇ダーツも、そして集団女子高生拉致事件も、まるで無かったことにされた。
「なんで警察の手が入んねーんだよ。銃声だってしただろーが」
学校でのたまり場、使われていない水泳部の部室に集まった中で、ツボミはひとり声を荒げる。
今日の弁当はアルミホイルで包んだ不格好でデカいおにぎりで、大口を開けてかぶりついている。
どうやら自分で作ったらしい。
それが美味そうにでも見えたのか山田が、
「いっこくれよ」
手を出すが綺麗に無視されて、
「セレーネがイギリス船籍だからだよ」
ふてくされて言う。
「あの船の上、ましてや外洋に出ちまえば日本の法律は通用しねぇの。そんな船に日本警察が介入して、それで何も無いなんてことになったら、それこそ国際問題になるだろ。向こうから協力要請がねー限り、こっちからは手が出せねーんだよ」
パーティは確かに、船が出航してから始まった。
「でも、死人が出るとこだったんだぞ」
腕と足を折られた彼女は重傷だった。
港に戻った後、すぐに救急車で運ばれていったが、当分は入院になるだろう。
それからツボミは包帯が巻かれた小林の手を見て、
「小林だって怪我したんだ」
小林も手のひらをダーツの矢で貫かれた。
でもアレは、実際は玉村にされたことだから、結局は身内の仕業ということになる。
本当にあの人たちは、ツボミ以外には優しくない。
事情を知っている山田は僅かに頬を歪める。
「言っただろう。船にはそんな女の子たちは乗っていなかったの。記録はゼロ。ついでに鴻上も小林もない。そんなパーティがあったっていくら訴えたところで、船に乗っていた証拠がない以上、疑われるのは密航だけだ」
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