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「雨の日に虹男に会っちゃいけないよ。彼はいつだってどこかしら欠けていて、出会った相手からも同じものを奪うんだ。
もしも虹男が右腕を折っていたら、お前の右腕も折られてしまうし、もがれた虹男の首と目が合ったなら、いずれお前の首も落とされるだろう」
「でも虹男は目が見えないんでしょう? 私、クラスで1番足が速いし、見つかってもきっと逃げきれるよ」
「たしかにお前は私みたいな年寄りとは違うけれど、虹男からは誰も逃げられないんだよ。出会ったが最後、遅かれ早かれ奪われる……例外はない」
あからさまに適当な返事をする私をたしなめるように、おばあちゃんは話しを続けた。
「私の同級生の八重島は、ちょうど今のお前くらいの頃に虹男に出会って足を折られてね。それこそ、当時は小学校で1番足が速かったものだけど……かわいそうに、今でも右足を引きづっている」
「その子、本当に虹男に会ったの? ただの事故とかじゃあなくて?」
「まさか。私は本人から聞いたんだ。それに、虹男はいるよ。私は知ってる」
「なにを?」
「私の両目は彼が持ってる」
そう言って、おばあちゃんは包帯の巻かれた自身のまぶたの上を、愛おしそうになぞってみせた。いつも身の回りはきれいにしておきたがるおばあちゃんが、なぜかその包帯だけはめったに交換したがらないので、小学生の私はつい好奇心で聞いたのだった。
「虹男の包帯も、そんなふうに虹色だったの?」
使い古した包帯は、ほつれ、黄ばみ、多彩なシミをつくってしまっている。私の問いに、おばあちゃんはにたりと笑った。
「気をつけなさい。お前は人より度胸があるけれど、いつかそれが裏目に出ることもあるだろう」
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