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あ、また一緒だ……。
友達と別れて校門を出たところで、詠太は前を歩くその女子生徒の背中に気付いた。
彼女は今年から同じクラスになった子だ。帰る方向が同じらしく、詠太はこれまでも何度も彼女と同じバスに乗り合わせていた。詠太が先に降りるため、彼女がどの停留所で降りるのかまでは知らない。
半年もクラスメイトをしていて、その上こうしてバスまで度々一緒になるのだから、それなりに親しくなっても良さそうなものながら、詠太は彼女とはまだ一言も言葉を交わしたことがなかった。それには一つの理由がある。
彼女――倉本沙耶は男嫌いだ。
沙耶は男子の誰とも口をきかない。事務的な用には応じるが、それも必要最低限の会話で終わるらしい。男嫌いだ、というのはそういうところからきた「噂」であるが、それが本当か嘘なのかは詠太にはわからない。ちなみに、女子同士の間ではいたって普通の女の子のようだ。
別にどうだっていいのだけど、と詠太は短くため息を落とした。クラスメイトだからって、親しくしなきゃいけないという義理はないのだし――なんて思ってはみるも、要するに、詠太は沙耶に話しかける勇気がないのだった。
相手が誰であれ、拒絶されるのは怖い。
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