1 クラスメイト

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 バスは比較的空いていた。先に乗り込んだ沙耶は迷うことなく最後列まで歩いて行く。考えた挙句、詠太はその後ろについて行った。せっかく話ができたのに、このまままた知らんぷりはもったいない気がした。  沙耶は奥の席へ座り、後ろから来た詠太を気にすることなく、窓の外に目をやった。  バスが動き出す。空席がいくらでもあるのに、いつまでも突っ立っているのもおかしい。詠太は深く息を吸うと、思い切って沙耶に声をかけることにした。  無視されてしまうだろうか。  緊張が走った。 「隣、座っていい?」  沙耶がやっと詠太に目を向けた。初めて詠太がそこにいたことに気付いたようだった。沙耶は不思議そうに首を傾げ、小さく頷いた。  詠太はホッと胸をなでおろした。「嫌だ」「駄目だ」と言われれば、やっぱり少なかれ傷付いてしまっただろう。  沙耶は詠太が隣に座っても、特にそれを気にする様子もなく再び窓の外に目をやった。結局、詠太のことは無視のようである。  まあいいか、と詠太は小さく息をついた。日頃の沙耶を思えば、こんなふうに自分が隣に座っていることだけでも不思議なのだ。それぐらい、普段の沙耶は男子を近くに寄せ付けない。それがわかっていたから、バスが何度一緒になっても、詠太もこれまで沙耶に話しかけようとは思わなかったのだ。  それが今日はちょっと違う。  せっかくきっかけができたのだ、やっぱりもう少しだけ言葉を交わしてみたい気がした。
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