1 クラスメイト

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「倉本」  そっと声をかけてみた。特に用があったわけではない。もし聞こえていなければそれでいいかと思ったが、沙耶の耳にはその呼び掛けがちゃんと届いたようだった。無言ながら、沙耶が詠太の方へ顔を向けた。  まともに目が合う。その拍子に、詠太の心臓がトクンと跳ねた。 「あ、あの、さ」  予期しない動悸に戸惑いながら、詠太は慌てて話題を探した。 「倉本って、オレの名前知ってる、かな?」 「え……」  数秒の後、小さな返事が返ってきた。 「……新見くん。新見、詠太くん」 「あ、知ってた?」  沙耶は困ったような目で詠太を見返した。 「私だってクラスメイトの名前ぐらい憶えてます」 「ま、まあ、そうだよな。失礼失礼」  ハハハと笑う詠太に、沙耶はつられたように口許を綻ばせた。控えめだが、ちゃんとした笑顔だ。  詠太は思わず目を丸くした。  八重歯がのぞくその笑顔は、思いがけなく可愛かった。  心臓が、さらに鼓動を早める。  沙耶がまともに会話をしてくれていることが嬉しかった。  拒否されていない。
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