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 横長の作業机に並べられたダンボールに商品を詰めながら、談笑する太田の声が倉庫内に響いていた。机に対して横一列に座らされた従業員達はベルトコンベアで流れてくる商品を次々に梱包していくが、太田は周囲の同僚とのお喋りを優先して作業の進捗は芳しくなかった。他の同僚――皆太田と同様の中年女性達であったが、彼女達の話といえば亭主の悪口か芸能人の不倫話、そして体の不調の話ばかりであった。  ここの職場は女性の割合が多いが、その多くはピッキング作業を主に任せられる。男性達はフォークリフトを使っての倉庫内の運搬やその他多くの力仕事を担当しており、女性達は必要な商品を倉庫内から集めて梱包してから発送手配を行っている。  女性達は扱う商品の特性によっていくつかのチームに分けられるが、私は太田をリーダーとするチームに所属していた。私達のチームのピッキングはトータルピッキング若しくは種まき方式と呼ばれるタイプのもので、これは先に必要な商品をピックしておき、まとまった数量が確保できてから注文ごとに仕分け作業を行っていくというやり方だ。少品種を大量に出荷する際によく採用される方式であるが、作業内容が比較的単純な分、処理速度の速さが求められる。  太田の指示により必要な商品を倉庫内から探し出してチームのところまで運ぶ役目と、それを検品、梱包する役目に分けられたが、私一人が前者で太田を含む残りの八人の同僚達は後者であった。  力仕事は男の担当ということであったが、私の役目はなかなかの力仕事であり、倉庫内を走り回って該当する商品の入ったプラスチック製のコンテナボックスをカートに積み込み、太田達のいる作業机まで運ぶのはかなりの重労働であった。同じ大きさのコンテナボックスでも中の商品によって重さが全く異なっており、油断すると腰を痛めることもある。又、高い棚にあるコンテナボックスは脚立に上って取らなくてはならない為、転落の危険もある。  これらの作業を一日中行っていると、時として男性社員より力仕事をさせられているように感じられた。太田達もそれが分かっているから、自分達のポジションを放棄しようとすることは絶対になかった。それに終始雑談をしているせいで作業が遅いので、課長の相沢から私も含めたチーム全員が叱責を受けることも少なくなかった。
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