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ある日、相沢が私達のチームに怒鳴り込んできた。客から届いた商品の内容が違うというクレームが入ったというのだ。それはそうだろう。仕事そっちのけでお喋りに夢中になっていればいつかこんなことが起こっても全く不思議ではない。
作業効率の向上とヒューマンエラーの減少の為に業界全体で作業のデジタル化が定着している中で、機器の導入を渋ってひたすらアナログな方式のままの会社側にも問題はあるが、それにしても太田は普段から些細なミスが多すぎた。所詮太田は最年長、最古参ゆえにリーダーのポジションが与えられたに過ぎなかった。
今回の致命的なミスにより日頃から相沢が太田に対して抱いていた不満が爆発したのだろう。相沢は普段より激しい剣幕で太田を責め立てた。
相沢に厳しくミスの原因を問い詰められて狼狽した太田はうつむきながら「そもそも流された商品が違ったのです」と言った。私は唖然とした。素直に自分のミスを認め今後の勤務態度を改めるのかと思いきや、私に責任を転嫁してきたのだ。
相沢は私にむかって「小野君、そうなのか?」と尋ねた。私は思わず「間違ってないと思います」と答えた。太田の強い視線を感じた。
「太田さん、今回の問題は異なった商品が梱包されたわけじゃない。梱包する数量が間違っていたんだよ。つまり君が間違えたんだ。太田さん、あんたちゃんとチェック表を見ながら作業をしてるのか? え? 適当に詰め込んで後からチェック表にまとめてチェックしてるだけなんじゃないだろうね?」
相沢は強い口調で太田を問い詰めた。
「いえ・・・・・そんなことは・・・・・・」
図星をつかれた太田は完全に意気消沈していた。
「今回の件は来週までに報告書を出すんだぞ、太田さん」
そういうと相沢は踵を返して事務室へと戻っていった。
残された私達の間に寒々しい空気が漂った。
私だけが立っていたが、作業机の前に座る彼女達の視線を強く感じた。その視線には明らかに敵意が込められていた。私はそのような視線を向けられる謂れはないと思い何かを言おうと思ったが、何も言えずに黙って倉庫の方に戻った。
その日、終業のチャイムが鳴った時に私に声をかける人間は誰一人としていなかった。
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