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 翌日職場に行くと見知らぬ女がいた。  相沢が「今日から配属された吉田(よしだ)さんです。みんなしっかり面倒をみるように」と一言言って事務室の中に帰っていった。  次は吉田が自己紹介をするものと思って一瞬の沈黙があったが、吉田は無言で作業机の前の椅子にどかっと座った。ポケットに手を突っ込んだまま「で、何すりゃいいんすか?」とぶっきらぼうに言った。太田が取り繕うように言った。 「吉田さんはこの近くにある佐上工業高校卒業後にウチに来てくれました。吉田さんに一人前になってもらうためにもみなさんで協力し合いましょう」  頭頂部だけが黒い金髪頭、不自然に細められた眉毛、吹き出物だらけの顔、真新しい作業着に染み付いたタバコの匂い――おそらく指にもタバコの匂いが染み付いているだろうこの手で商品に触れるのか、と思ったが若い戦力が増えることは自分にとって救いだった。自分一人で担当していた業務に対して太田達の業務は明らかに余剰人員がいたからだ。と思ったら、太田は自分達の作業机の端に吉田を座らせた。まさか自分達の業務に就かせるのか――驚いて思わず「吉田さんは私のほうではないのですか?」と尋ねると太田は私と目も合わせずにこともなげに言った。 「小野さんは仕事を一人でやるほうが性に合ってるんでしょ? 協調性のないあなたにはこのほうがいいと思って」  結局、仕事の負荷は今までと変わらなかった。  太田達は相変わらずお喋りに多くの時間を浪費していたし、吉田は堂々とスマホをいじりながら仕事をしていた。
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