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終業を知らせるチャイムが倉庫内に鳴り響いた。
「由佳里ちゃん、お疲れ様」
隣にいた太田が疲労感を滲ませた声で挨拶してきた。
太田は今年で55歳になる中年女性達のリーダー的な存在だった。
「ああ、太田主任、お疲れ様でした」
「由佳里ちゃん、知ってる?まーた相沢課長が事務室でタバコ吸ってたのよ・・・・・・ この前のミーティングの時に部長から所内では全面禁煙だってお達しが出たっていうのにさ。あのハゲブタ、部長がいない時には平然と吸ってるのよ。もう最悪よ、死ねばいいのにさ、あんな奴。由佳里ちゃんもそう思うでしょ?」
太田は厚塗りされたファンデーションに大きなつけまつ毛、派手な赤のリップを施したピエロのような顔を私に近づけてきて、唾を飛ばしながらまくしたてた。
「そうですね・・・・・・。ほんとそう思います」
ロッカーへ向かう足をさりげなく早めながら適当に相槌を打った。
「でしょう、そうよねぇー。あ、あとこの前なんかアイツ倉庫の隅で痰を吐いてたのよ! もう信じらんないわよ! これも部長に言っとかないと! あーむかつく!」
「・・・・・・そろそろ失礼します」
ロッカールームで作業着から私服――アウトドア用のダウンジャケットにジーパン、スニーカーといった飾り気のないファッション――に着替え終わった私は、話に夢中で着替えもままならない太田の脇をすり抜けて足早に職場を後にした。
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