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 私が10歳で小学4年、沙耶が3歳で幼稚園の年少の時に実の母である亜紀(あき)が癌で亡くなった。優しかった母が35歳の若さで逝ってしまった。私は身近な愛する人間の死を受け止めることができずに、よく家の中で一人で泣いていた。そのたびに沙耶が私のところに来て大声でわんわん泣き散らす私の頭を撫でた。私はそんな沙耶を強く抱きしめて更に泣いた。沙耶は困ったような顔をしていたが、私にとっては悲しみを妹と共有しているという実感が大きな救いとなった。  そんな中、父の修二(しゅうじ)が新しい母となる人物を家に連れてきた。それが友香だった。友香は私より2つ年下の長女、寧々(ねね)と、更に2つ下の長男、和也を連れていた。  四十九日が終わった直後に新しい母を連れてきた父に私はとまどいを隠せなかった。そして悲しかった。あれほど母と仲睦まじかったように見えた父がすぐに新しい母を連れてきたこと、そしてそのことを私達に一切の釈明をすることなく、さも当たり前のように私達の日常に友香達を介入させてきた父を私は憎悪した。  友香は初めから私と沙耶に関心を持たなかった。  私達姉妹がこの家に存在しないかのように振る舞い、もともと無口だった父も友香の振る舞いに対して何か口を挟むようなことは一切しなかった。そもそも広告代理店の下請けの制作会社で働いていた父は平日の帰りが遅く、休日に出社することも多かったので家にいる時間が少なかった。  我が家の支配者は友香となった。  私達姉妹を霧か霞のような存在として扱い、我が物顔に振る舞い、自分の子供だけを可愛がる友香は私にとっては家を乗っ取った強盗のような存在であった。  私と沙耶の方が居候のような扱いを受けていることに対して父に抗議したが、 「皆と仲良くできるように努力しなさい」  その一言で終わりだった。  私は父に激しく失望したが、この頃はまだ幸せだったことに後に気付かされることになる。人は霧を掴むことはできない。全く関心を示されないほうがはるかによい。  逆に悪意を持った人間に取り憑かれた者がどうなるか、後に嫌というほど体験することになるが、この時にはまだ知る由もなかった。
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