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「ふふ、元気なお嬢さんですね」
倒れていたブロッコリーは起き上がった。
「逃がしませんよ。この町から人間をすべて捕まえろとのご指示ですから」
ブロッコリーは立ち上がり、彼女の進んだ道を跳びはねて進んだ。
沙羅は駆けた。青いコンビニの前を過ぎ、倒れていた自転車を跳び越え、道路脇に積まれたゴミ袋の山の横をすり抜けた。大通りに出ると反射的にいつものバス停の方向に曲がった。走り続け、バス停の標柱が見えて来た頃、沙羅はようやく町の様子がおかしいことに気がついた。
「なによ、これ」
人の姿がまったく無い。車も一台も走っていない。沙羅はきょろきょろしながら小走りで進んだ。これは夢ではないという恐怖がじわじわと押し寄せて来る。
「なんで私がこんな目に……」
泣き出しそうになりながら数百メートル進んだ時、はるか前方に人影が見えた。隣町との境になる沙霧橋の向こうで、孫を連れたおばあちゃんがのんびりと散歩している。スマホを操作しながら歩く学生の姿も見えた。
助かった、沙羅がそう思って沙霧橋の赤い欄干の脇に走り込んだ時、回りの景色がぐにゃりと歪んだ。
エレベーターで急降下したような浮遊感に思わず膝をつく。そのまま座り込んだ沙羅が何とか顔を上げた時、風景はまったく変わっていた。橋の欄干は擬宝珠の付いた石造り、周りには古びた団地の建物が並んでいる。その景色には見覚えがあった。沙羅は一瞬の間に町の反対側の端、市杵橋のたもとに移動していたのだ。
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