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「町からは出られねえぜ、お嬢」
背後からの声に跳び上がる。
「また出たわね、化け物ブロッコリー」
沙羅は振り向いた先に立つ人間大の野菜に言い放った。
「ちっちっちっ、オレをブロッコリーなんかと一緒にするなよな」
野菜はかぶりを振るように上部をくねらせた。頭でっかちな形状は似ているが、色は黄緑がかった白色だ。
「あんた……、もしかしてカリフラワー?」
「そうよ、ちょっと煮られただけでずぶずぶになるようなブロッコリーとは違うぜ」
どっちにしたって化け物、と思ったが口には出さなかった。
「でも、あいつの仲間なんでしょ?」
「そうでもないぜ。今回はルールを伝えるメッセンジャーさ」
「ルール?」
「そう、町の領有をめぐるゲームのルールだ。プレイヤーはこの町の住民とブロッコリー一体」
「何それ?」
「ブロッコリーが町の住民全員を捕まえて、」
カリフラワーは腕のように突きだした花芽の一つを上空の皿に向けた。
「皿の上に送り込めばブロッコリーの勝ち、住民がブロッコリーを撃退すれば住民の勝ちだ。この町は勝った方のものになる」
「訳わかんない。何でそんなことしなくちゃいけないの?」
「上が決めたことだ」
カリフラワーは上空を振り仰いだ。
「せいぜいがんばるんだな、お嬢」
向きを変えて歩み去ろうとする。
「待ってよ。撃退するってどうするの?」
沙羅は必死でくいさがる。カリフラワーは振り向きもせず答えた。
「物理的に抑え込むのでもいいぞ、ブロッコリーは人間の二十倍の戦闘力を持つからちょっと大変だけどな。他には、あいつの頭に%&$\#を浴びせるとか……」
「えっ?」
「教えたらゲームにならないから伏せ字だな。どこの家にも有るものだ」
そこまで言ってカリフラワーは振り向いた。と言っても向きが変わっただけで表面の様子の区別はつかない。
「もっともゲーム開始から時間がたっているからな。ブロッコリーの奴、町中の%&$\#を回収済みかもしれん」
「そんなあ」
弱音を吐く沙羅を無視し、カリフラワーはふわりと浮かび上がった。体をくねらせながら上昇し、上空の巨大な皿に向けて飛び去って行った。
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