目覚め

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 音を聞きつけてブロッコリーがやって来るかもしれない。沙羅は穴をくぐって店に入り、買物カゴをとって通路を駆けた。目指すは調味料の売り場だ。 「やっぱり」  調味料の棚のあれの部分が空っぽになっていた。ブロッコリーが持ち去ったに違いない。でも、それならそれで方法がある。沙羅は売り場を巡りながら、商品を選んでカゴに入れていった。玉子、サラダ油、塩、そして……。 「あっれー」  調味料の棚にもうひとつ、商品がごっそりなくなっている部分があった。 「ブロッコリーの奴、ちょっとは頭が働くようね。なにか代わりになるものは……」  沙羅は店内を歩き回り、野菜売り場で歓声を上げた。 「見っけ」 棚に並ぶレモンをどんどんカゴに移す。 「後は道具ね」  調理器具の売り場に移動し、ボウル、泡だて器、キッチンナイフ、スクイーザー、絞り出し袋をカゴに入れる。棚に並ぶエプロンから胸あて付きのものを選び出した時、背後でガラスの割れる音が響いた。  振り向いた沙羅の目に映ったのは、完全に破壊された入口のガラス扉と跳びはねながらこっちに向かってくるブロッコリーの姿だった。沙羅はカゴをつかんで走り出す。通路を駆け、辿り着いたのはあらかじめ位置を確認しておいた「紳士は入れない場所」だ。個室に飛び込み、扉に鍵をかける。エプロンをつけ、腕まくりをすると、座席に座り込んで作業を始めた。  ボウルに卵を割り入れ、2つに切ったレモンを絞ってその果汁を加える。さらに塩を加えて泡だて器でかき混ぜる。十分混ざったところで少量のサラダ油を加えて、泡だて器を叩きつけるようにして混ぜ合わせる。半透明だった材料はもったりとしはじめ、てらてらした黄白色へ変化していく。そこにさらに……。
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