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十分後、沙羅は個室の扉を開けて外をのぞいた。沙羅が籠っている女子トイレの外でブロッコリーが通せん坊をしている。出口をふさぐだけで、中に入って来るつもりはないようだ。沙羅は扉から顔だけを出し、憎まれ口を叩く。
「ねえ、あんた邪魔よ。どっかへ行きなさいよ」
ブロッコリーは回れ右をした。顔が無いのでわからないがこちらを向いたらしい。
「そうはいきません。お譲さんこそあきらめてこっちへ出てきなさい」
沙羅はゆっくりと個室から出た。ブロッコリーはぴょんと跳びはねたが、女子トイレの入り口の前で止まった。紳士として中には入れないらしい。上部をひょいと曲げる。
「お譲さん、体形が変わっていませんか? さっきは……」
「どこ見てるのよ、エッチ!」
鋭く言い放つ。たじろぐブロッコリーの様子を見ながら、沙羅は少しずつ前に出た。
「おなかが空いたわ。食べるものを持って来てよ」
「なんで私が……」
「ハンバーガーがいいわ。牛肉100パーセントのバテに薄切りトマトとざく切りレタス、そして……」
わざと一呼吸おく。
「たっぷりのマヨネーズ」
「マ……」
ブロッコリーは絶句して立ちすくんだ。
「あら、マヨネーズはお嫌い?」
「そ、そ、そんなことは、ないですよ」
「それならどうぞ召し上がれ」
沙羅は一気にダッシュしてブロッコリーに駆けよった。エプロンの胸あてから中身がいっぱいに詰まった絞り出し袋を取り出してブロッコリーに押し付ける。
「はいどうぞ」
絞り出し袋から勢いよく飛び出した黄色いものが浴びせかけられた。ブロッコリーは身もだえする。
「い、い、い、いやだ、いやだいやだいやだいやだ。私はマヨネーズ和えなんかにはなら……」
言葉の途中でばったりと倒れる。しばらくひくひくと痙攣していたが、やがて動かなくなった。
「YOU WIN」
どこからか、くぐもった声が響いた。
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